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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和51年(行コ)2号 判決

鹿児島県川内市若葉町一番二五号

控訴人

川内税務署長

命婦隆義

右指定代理人

田中清

甲斐津代志

黒木憲三

後藤伸一

伊香賀静雄

太田幸助

坂元克郎

同県同市御陵下町二九番一七号

被控訴人

南日本高圧コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

松下嘉明

右訴訟代理人弁護士

松村仲之助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のとおり附加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、以下、原判決末尾添付の別表(一)、(二)……又は同計算書(一)、(二)……は、単に別表(一)、(二)……又は別紙計算書(一)、(二)……という)。

(主張)

1  控訴人

(一) 原判決七枚目裏七行目と八行目との間に左記を加える。

「ホ そこで、製造原価から本件PC矢板の通常の販売価額を算定するに、一般に、販売価額は製造原価に一般管理費及び販売費並びに利潤を加算して算定されるのであるが、被控訴人にはパイル、矢板等の製造販売のほか工事収入もあって、当該製品販売に係る一般管理費等を的確に算定することは技術的に困難であるので、次により通常の販売価額を算定する。即ち、

〈1〉 被控訴人の第八期営業報告書の損益計算書によると、被控訴人の昭和四一年九月一日から同四二年八月三一日までの製造部門の売上金額は三億二、三三四万五、三二四円、同じく売上原価は一億九、三二八万三、八三四円で、売上原価に対する売上金額の割合は一六七・二%である。

〈2〉 ところで、右金額には本件の争点となっているPC矢板の金額が含まれているので、その売上金額二、四〇四万四、四三〇円及び売上原価二、四六一万九、〇七〇円(計算内容は左の〈イ〉〈ロ〉のとおり)を除算すれば、売上金額二億九、九三〇万〇、八九四円(a)売上原価一億六、八六六万四、七六四円(b)となる。

〈イ〉 PC矢板の売上金額

植村組 二、一七〇万七、〇〇〇円 三、二六〇・二五〇トン

その他 二三三万七、四三〇円 一〇四、三九〇トン

計 二、四〇四万四、四三〇円 三、三六四、六四〇トン

〈ロ〉 PC矢板の売上原価

一トン当り製造原価 七、三一七円 (A)

売上総重量 三、三六四・六四〇トン (B)

(A)×(B) 二、四六一万九、〇七〇円

〈3〉 PC矢板を除く製品の売上原価に対する売上金額の割合は右(a)を(b)で除した一七・四%となるが、PC矢板について右割合によることができない特別の事情もないので、PC矢板についても同割合によることとして一トン当りの通常の販売価額を算定すれば、一万二、九八〇円(七、三一七円に一七七・四%を乗じた金額)となる。」

(二) 原判決七枚目裏一二行目の「PC矢板」から同八枚目表一行目までを次のとおり改める。

「被控訴人の植村組に対するPC矢板のトン当り平均販売価額は昭和四一年三月三一日以前では九、八一二円であったのに、その後は五、五七六円に大きく値下りしているし、当期中もそれに近い六、六六二円の低廉価額であるか、右値下げについては、格別の事情もないから、少くとも値下げ前のトン当り平均販売価額九、八一二円を通常の販売価額とみるのが相当である。」

(三) 原判決九枚目裏末行目と同一〇枚目表一行目との間に左記を加える。

「(ハ) もっとも、前記定価表によれば、PC矢板のキログラム当り単価は厚さが薄い程高くなっていることが明らかである。そこで、前記加世田土木事務所長に販売したPC矢板の右定価表の価額と実際の販売価額との割合を基礎として、PC矢板の通常の販売価額を算定すると、次のとおりである。

即ち、前記『八×四〇×四・五』のPC矢板の定価表の価額はキログラム当り二二円ないし二五円(トン当り換算額二万二、〇〇〇円ないし二万五、〇〇〇円)と認められ、そのトン当り前記販売価額は二万二、六一二円で運賃相当額二、六三四円を差引くと一万九、九七八円となり、定価表の価額に対する割合は最低七九・九%(〈省略〉)であるところ、右割合に基づいて植村組に販売したPC矢板の通常のトン当り販売価額を算定すれば、厚さ二〇〇m/mのものが一万四、三八二円(18,000×79.9%)、厚さ二五〇m/mのものが一万三、九八二円(17,500×79.9%)となるが、これを販売重量により加重平均すると、トン、当り販売価額は一万三、九八七円(〈省略〉)となる。

なお、植村組への販売重量の内訳は本判決末尾添付の別表のとおりである。」

(四) 原判決一〇枚目表三行目の「約一万七、三〇〇円」を「少くとも九、八一二円ないし一万七、三〇〇円」と改め、同五行目冒頭から同九行目の「ものであって」までを次のとおり改める。

「法人税法一三二条一項は同族会社の行為又は計算のうち不当に法人税の負担を減少させるものについて、これを否認したうえ、通常の行為形態に引直して課税標準等を計算するものとされているが、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうかは、専ら経済的実質的見地において法人の行為、計算が経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断さるべきものであるところ、これを植村組に対する本件PC矢板の販売価額(単価)についてみれば、いずれも、前記通常の販売価額の最低価額である九、八一二円に当該PC矢板の各規格の一本当りのトン数を乗じて得られる通常の取引における販売価額(単価)だけでなく、トン当り製造原価である前記七、三一七円に各規格の一本当りのトン数を乗じたもの、即ち、別表(一)中『たな卸計上高』欄記載のたな卸評価額さえも下廻る異常な低価額であるから、」

(五) 原判決一〇枚目裏一一行目と一二行目との間に左記を加える。

「なお、本件については、法人税法一三二条一項のほかに、同法二二条及び三七条六項の適用がある。即ち、同法二二条の『有償又は無償による資産の譲渡』はいわゆる低額譲渡をも含むものであるところ、本件PC矢板に関する控訴人主張の時価と低廉価額との差額である六五一万二、六三〇円は同条による収益として益金の額に算入されると共に、同法三七条六項により寄付金の額に含まれるから、これによっても同様の結果が生ずる。」

2  被控訴人

(一) 原判決二枚目裏一三行目と一四行目との間に左記を加える。

「本件処分における課税所得の計算は別紙計算書(三)の『科目』欄に対応する『更正額』欄記載のとおりであり、被控訴人の主張する課税所得の計算は同『原告の主張』欄記載のとおりである。

(二) 別紙計算書(三)の「更正額」「原告の主張」の各欄に「(円)」を加え、「科目」欄の「9寄付金計上もれ」に対応する「更正額」欄の「六、五一二、六五〇」を「六、五一二、六三〇」と改める。

(三) 原判決三枚目表四行目の「四一」、「四二」をそれぞれ「四〇」、「四一」と改め、同五枚目裏末行目の「および」を「を指摘して計上すると共に」と改める。

(四) 原判決一五枚目表一一行目と一二行目との間に左記を加える。

「(ハ) 同(ホ)は争う。それは売上金額を売上原価の割合によって推定せんとする趣旨のようであるが、被控訴人の当期における法人税の確定申告は青色申告によるものであるから、かかる推定による課税は法人税法一三一条により認められていない。」

(五) 原判決一六枚目裏一三行目と一四行目との間に左記を加える。

「(ハ) 同(ハ)のうち、PC矢板のキログラム当り単価は厚さが薄い程高くなっていることは認めるが、その余は争う。ホ 同ホは争う。」

(六) 原判決一七枚目表二行目の「争う」の次に「(但し、被控訴人の植村組に対する本件PC矢板の販売価額(単価)が七、三一七円に各規格の一本当りのトン数を乗じたもの、即ち、別表(一)中『たな卸計上高』欄記載のたな卸評価額を下廻ることは認める)」を加え、同五行目の「(ハ)」を「(八)」と改める。

(証拠)

控訴人は新たに乙第二八号証の一ないし四、第二九号証の一ないし五、第三〇号証の一、二、第三一号証の一、二を提出し、被控訴人は右乙号各証の成立を認めた。

理由

一  原判決の理由第一項(本件処分)及び第二項(前期の売上の一部の当期への繰延べによる当期売上過大計上)については、当裁判所もまたこれと同一の判断をするので、ここに右各項の説示を引用する(但し、次のとおり附加、訂正する。)。

1  右第一項の末尾に左記を加える。

「そして本件処分により更正された課税所得金額の計算は、別紙計算書(三)の「科目」欄に対応する「更正額」欄記載のとおりであり、これに対する被控訴人主張の計算はその「原告の主張」欄記載のとおりであるところ、右計算上の争点は、同「科目」欄(二)の加算項目中前期たな卸過大追加八一〇万七、四八八円、売上計上洩れ六五一万二、六三〇円、同「科目」欄(三)の減算項目中売上繰延追認七七〇万二、九七五円、寄付金計上洩れ六五一万二、六三〇円、価額変動準備金の追認四〇万四、四一三円、同「科目」欄(四)の寄付金の損金不算入六〇二万四、三八七円の認定が正当かどうかにある。」

2  右第二項の(一)の八行目から九行目にかけての「事実」の次に「(当庁昭和五一年(行コ)第一号法人税更正処分取消請求控訴事件判決参照)」を加え、同九行目の「である。」の次に左記を加える。

「そして控訴人は、被控訴人の前期の法人税の確定申告に対する昭和四二年七月一五日付更正処分において、課税所得金額の計算につき、当期への繰延べによる前期売上計上洩れ七七〇万二、九七五円を計上すると共に、これに対応するたな卸高過大計上八一〇万七、四八八円及びこれを基礎とする価額変動準備金四〇万四、四一三円を否認したことは当事者間に争いがない。」

3  右第二項の(二)を左記のとおり改める。

「被控訴人は前記計算を採用しなかったが、当期への繰延べによる前期計上洩れ七七〇万二、九七五円が認められる場合、当期における法人税の課税所得金額の計算について、控訴人主張のとおり、加算項目として前期たな卸過大計上分八一〇万七、四八八円、減算項目として売上繰延の追認分七七〇万二、九七五円、価額変動準備金の追認分四〇万四、四一三円が計上さるべきことは当事者間に争いがない。

而して、当期への繰延べによる前期売上計上洩れ七七〇万二、九七五円が認められること前説示のとおりであるから、控訴人の右計算は正当である。」

二  次に、本件処分における被控訴人の製品の低価譲渡による売上計上洩れ六五一万二、六三〇円の認定が正当であるかどうかの判断はこれを暫く措き、本件処分には右低価譲渡による売上計上洩れの認定に基づく課税標準の更正につき、法人税法一三〇条二項違反の違法があるかどうかについて、まず判断する。

そもそも、法人税法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税につき更正をする場合において、更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、旧法人税法三二条と同様、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制すると共に、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものであり、従って、それはまた、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものというべきである。そして、右のような理由附記制度の趣旨にかんがみれば、帳簿書類の記載を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、更正にかかる勘定科目とその金額を示すほか、その更正の根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要すると解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第八八号昭和五一年三月八日第二小法廷判決・民集三〇巻二号六四頁、同四三号(行ツ)第六一号同四七年一二月五日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号一七九五頁、同四〇年(行ツ)第五号同四七年三月三一日小法廷判決・民集二六巻二号三一九頁参照)。そこで、これを本件についてみれば、被控訴人が控訴人より青色申告の承認をうけた法人であって、当期の法人税の申告を青色申告によってなしたものであること、ところが、本件処分の更正通知書には、低価譲渡による売上計上洩れの認定に基づく課税標準の更正に関し、「売上計上洩れ六五一万二、六三〇円」「植村組に対するPC矢板の売上を製造原価以下の価額で計上しているものについて、通常の取引額との差額を認定したもの」と記載されていることは当事者間に争いがなく、なお成立に争いのない甲第一号証によれば、右更正通知書中その記載を前提とする記載として「寄付金計上もれ六五一万二、六三〇円」「売上計上もれ相当額は植村組に対する贈与があったものとし除算する」旨のほか「寄付金の損金不算入額六〇二万四、三八七円」「植村組に対する贈与と認定したものについて寄付金の限度計算をした結果、損金不算入となったもの」の各記載がなされていることが認められる。右によれば、低価譲渡による売上計上洩れの認定に基づく課税標準の更正は、植村組に対するPC矢板の売上について製造原価以下の販売価額で計上しているものは、その価額が低すぎるから通常の販売価額との差額を売上計上洩れとして益金に計上する一方、同額につき植村組に対する贈与がなされたものとみなして、これを寄付金計上洩れとして損金に計上し、これに伴い寄付金の損金不算入額の変更が生ずる趣旨と解されるが、右の通常の販売額がいかなる根拠、基準に基づいて算定されたものであるかを知ることは全く不可能であるから、右の程度の記載では理由としては不十分であって、法の要求する理由附記があったものということはできない。従って、本件処分は、低価譲渡による売上計上洩れの認定――これを前提とする寄付金計上洩れ及び寄付金の損金不算入額の認定をも含む――に基づく課税標準の更正につき、法人税法一三〇条二項所定の理由附記の不備の違法があるものというの外ない。この点につき、控訴人は、本件処分における低価譲渡による売上計上洩れの認定は、本件PC矢板の販売価額が通常の取引価額に比して異常に低廉であることを理由に税法上否認したものであって、帳簿に記載された取引価額そのものの信憑性を否定したものではないから、「特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする」必要はない旨主張するが、そもそも、本件処分における課税標準の更正の附記理由からは、右低価譲渡による売上計上洩れの認定が、帳簿に記載された取引価額そのものの信憑性を否定したものでないかどうか明らかでなく、仮りに右認定が法人税法一三二条一項所定の所謂行為、計算の否認によるものであって、帳簿に記載された取引価額そのものの信憑性を否定したものでないとしても、その認定の具体的根拠を資料を摘示して明示することを要するものと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

三  以上の次第であるから、本件処分は、その課税所得金額の計算についての前記争点中、加算項目である前期たな卸過大計上分八一〇万七、四八八円、減算項目である売上繰延追認七七〇万二、九七五円、価額変動準備金の追認分四〇万四、四一三円の認定計上については正当であるが、その余の計算、即ち、加算項目である売上計上洩れ六五一万二、六三〇円、減算項目である寄付金計上洩れ六五一万二、六三〇円、寄付金の損金不算入六〇二万四、三八七円の認定計上については、それが正当であるかどうかを判断するまでもなく、その計算の限度において、更正理由の附記の不備により違法となるものである。従って、本件処分のうち、別紙計算書(三)の「認定額」欄記載のとおり計算された課税所得金額四、八〇六万四、四二七円を基礎として算出される税額を超える部分は、違法として取消を免れない。

よって、以上と理由を一部異にするが、被控訴人の本訴請求中、本件処分について課税所得金額四、八〇六万四、四二七円を基礎として算出される税額を超える限度においてこれを取消し、その余の請求を棄却した原判決は、結局相当というべく、従って本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古川純一 裁判官 谷口彰 裁判官 竹江禎子)

別表

〈省略〉

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